04/07/24
スチームボーイ見物記


 AKIRAを初めて観たときは衝撃以外の何物でもなかった。映像、音楽、世界観全てに圧倒された。それから15年、アニメ業界にとどまらずあらゆるサブカルチャーのジャンルにおいて後世に最も影響を与えた作品となったのは論を待つまでもない。タイトルバックの音楽、球形の破壊シーンだけとっても一体どれだけの類似品が出回ったことか。

 大友克洋という人はAKIRA以前から漫画の世界では知らない人はいないぐらい有名な人だし、手塚以前以後とで漫画の作法が一変してしまったように、その登場以前以後で漫画の描き方を一変させてしまったほどの人なのだった。

 そんな大友監督の最新作スチームボーイですよ。
 ネットなどで前知識を仕込んでからの鑑賞だったので、AKIRAみたいなのを期待しない方がいいとは知っていたけれど、
 観客少なっ!
 100人入るところにせいぜい20人ほど。人の少ない夜の上映だったとはいえ、ここまでとは・・・。確かに宣伝少なかったし、それほど一般に知名度がある人ではないけれど。

 一口で買った事を激しく後悔したポップコーンを食べているうちに明かりが消え上映開始。
 いきなり「ハウルの動く城」の予告映像とか流して大丈夫なのだろうか。どう見ても比較されてしまうと思うが・・・。

 内容はまあ、大友監督が作った世界名作劇場ってなノリ。
 時は19世紀のイギリス、スチームボールという驚異のエネルギー源を巡って争奪戦がくり広げられ、やがて英国の万国博覧会やロンドン市街を巻き込んだ大破壊へと発展していくという筋書き。

この作品のテーマは科学。
科学は世界の真理に迫り、人々の暮らしを豊かにもしたが、同時にその力によっておびただしい殺人や圧制をももたらした。科学はどうあるべきなのかというのがこの作品の発する問いなのだ。答えではなく。
だから、主人公のレイは対立する親父と祖父のどちらにも賛同できずに宙ぶらりんのまま、スチームボールを持ってオタオタといった感じ。父と祖父の思想の違いは科学というコインの両面であって、それはスチーム城の外観で象徴的に表されている。
この主人公の迷いにリアリティを感じられない人には作品への感情移入は難しいだろうなぁと思う。

 気になる点をまず。
・物語が勢いを持つまでの駆け出し部分がちょっと冗長に思える。
 「クラウンを環状5号に追い込んだぜ」の台詞一発で話が加速していくAKIRAの時に比べると、正直まどろっこしい。
・見る側にも作り手にもなじみのないイギリスが舞台なせいか、ちょっと臨場感が欠けるというか、絵葉書の中の世界みたいな空々しさが気になった。だから街が破壊されてもカタルシスがちょっと薄い。
・そして、動きに爽快感がない。宮崎アニメだったらバッと跳んでダダダーーーッと駆け抜けてしまうような状況でもテクテク走っていくという感じで、ああまだるっこしーなまったくという気分にさせるんだがそれはこの人の個性なのかなとも思う。早い話が動きにあまり誇張がないのだ。
・あと、これを言っちゃ悪いが、爺さんの声の人の演技にはどうしても入り込めなかった。重要な狂言回しなんだからここはもっときちんとやってほしい。

 でも作品としてみたら十分に水準以上の出来ではある。過去が偉大すぎると損ですなぁ。

 個人的には、これでもかという歯車や破壊シーンより、スカーレットを抱えて空を飛ぶレイをロンドンの子供たちが追いかけるラストのシーンが一番鳥肌が立ったし、あれこそがこの作品の救いだと思った。