3
時は少し遡ります。
ひとまず戦いが終わり、ナセルの陣地は傷付いた兵士や散乱した武器や遺体、その肉片の片付けを行なっています。
人々に勝利の充足感はなく、皆押し黙って陣地の整備に動き回っていました。
戦死者は部隊の半数に及び、それは生き残った者達と少なからず関係を持っていた人達です。ナセルをも含む誰もが思っていました。この戦いで死んでいく事の虚しさを。いくら命令とはいえ、あまりにも虚しい。
「国の王達にとって、これは狩りのようなものなのだろう。そして我々は猟犬と言うわけだ…。戦いが済めばおとなしく小屋に戻り、与えられた褒美だけで傷を癒せと言われる」
ナセルの口から出た、静かな怒りに満ちた言葉でした。
「だが、このままではいさせぬ…」
彼は一人、唇を噛み締めました。
生き残ったドラゴン達は砦に引き下がったまま動こうとしません。
まさか篭城ではあるまいかと彼は思いましたが、援軍が来る知らせは届いてはいません。
ナセルは今までに討ち取ったり捕らえたりしたドラゴンの数も数えていました。その数およそ八十。
もはや相手の頭数は四分の一にも満たないはずです。態勢を立て直すどころでないのは間違いありません。
昼間、ラクロによって切り出された木々はいかだとなって、ナセル達の前に浮かんでいました。
「いよいよ交渉ですか…」
セロムは訊きます。
「まだ抵抗があるかも知れん。それでも付いてくるか?」
ナセルは訊き返しました。
「私はこの戦いを最後まで見届けたいと思っています。もはやこれは誰の命令でもありません」
「30隻のいかだでは、たいした護衛はつけられぬぞ」
「行きましょう」
ナセル達はいかだに乗り込んでいきます。
「出るぞ」
ナセルは小さな声で号令をかけます。漕ぎ手達はいっせいにオールを水面に差し込んで、いかだの群れはゆっくりと岸を離れていきました。
一行は松明を点したまま砦に近付きます。当然、砦からもそれは丸見えです。見張りのドラゴンはそれを見て慌ててルルトたちの所へと飛んできました。
「来る時が来たようだ」
そこにいる誰もが、相手が何をしに来たのか察していました。戦いに来たのなら、わざわざ相手に存在を知らせる必要はありませんから。
中には怒り出す者もいます。一人残らず討ち死にするまで戦おうという血気盛んな者も。
「もう抵抗しないで」
ルルトは皆にそう言い聞かせました。勝負が決した今となっては、そんな抵抗は何の意味もないことです。
「せめて、皆が生きられる道を探そう」
生きていれば、また皆が喜べる時が来るだろう。彼はもう誰も死なせたくなく、殺したくなかったのです。
門が重々しい音を立てて開き、ナセルの一行が入ってきました。迎え入れるドラゴン達も、ナセルを囲む衛兵達も、互いに強い怒りのこもった視線を投げ合い、重い沈黙が中庭を包み込みます。
仲間を殺された恨みは、すぐにでも暴力となって相手に襲い掛かりかねない空気でした。
そんな中、ナセルは一歩進み出て言い放ちます。
「我々は講和を結びに来た。この戦いを終わらせるために」
「条件を言え」
セバルーは身構えつつナセルをにらめつけます。ナセルは気にする様子もなくその場に立っていましたが、マントの裏側では腰の剣の柄に手をかけていました。
「この戦い、もはや趨勢はきまった。これ以上の抵抗は無意味であろう」
その言葉はドラゴン達の誇りを大いに傷つけるものではあります。しかし認めたくなくてもそれは事実と言わざるを得ません。
「ドラゴン達の無条件降伏。これが講和の条件だ」
「何だと?」
ヴカームも怒りの声を上げます。やはりドラゴン達は本音では人間をどこか見下しているのです。
ドラゴン達の怒りは怒号となってナセルへと向かっていきました。
「冗談じゃない。人間など信用できるものか。今まで俺達を追い立て、今度は飼いならそうと言う気か」
セバルーの言葉に、他のドラゴン達も大きく頷きます。話し合いは少しも進展しませんでした。
「た、大変です!」
そんな中、見張り塔に立っていたドラゴンが血相を変えて舞い降りてきました。
「森が光っています…」
空には青白い光の粒子がオーロラのように波打っていました。それは森から周囲へと広がっていき、彼らのいる湖まで覆っていきます。
彼らの周囲で灯っていた火は突如として消え去り、光の粒子が放つ青白い光が皆を照らしだします。
鏡から放たれた光はたちまち砦を覆い、さらに膨らんで湖も森も包み込んでいきました。
皆がその眩しさに目を閉じ、次に目を開けたときには周囲の景色が一変していたのです。
「なんだこれは…?」
いつもは動じないナセルも思わず驚嘆の声を上げていました。さっきまで彼らは夜の砦にいたはずです。
そこには、白い岩に覆われた、彼らが今までに見た事もない都市の風景が広がっていたのです。空は青く晴れ渡り、太陽が彼らを照らしていました。
「まさか…これは…」
セロムは身を乗り出して景色に見入り、その目を瞬かせました。
「これこそ、古の都市、ズード」
その声と共に、霞の中から人影が姿を現します。
「これこそが、鏡に収められていた都市の記憶。我が一族はこれを守り伝えていくために生きてきた。長い年月と共にその事は忘れ去られ、我が一族は訳も分からず鏡だけを守ってきたがの」
「ジム殿…」
セロムは、その人影に言葉を投げかけます。
「おまえ達にこれを見せたかった」
石造りの都市。そこを翼のないドラゴンや人間達がせわしく行きかっていました。
「これが、鏡の本当の力…」
そう言ってルルトは周囲を見回しました。鏡の姿はどこにも見えません。
『火は王のものだった』
夏至の時、上天の太陽から一筋の光線が放たれると、それは都市の中心にある塔に行き着きます。そして塔には炎が点されました。
場面が変わります。一行の目の前にさっきの塔がそびえていました。継ぎ目が見えないほどに精巧な石造りの塔。そしてその中に大きな炎が揺らめいています。
彼らが動かなくても、視点は勝手に動いていき、塔の中へと進んでいきました。
「便利な紙芝居だ」
ナセルは興味深そうにその様子を眺めています。
塔の中にはたくさんの人間とドラゴンがいて、皆が火を持つ者の前にひれ伏し、王に仕えていました。
王の姿は天蓋に覆われ、その姿は見えません。わずかにはみ出した下半身には豪華な衣を幾重にも重ねられていました。
「今も昔も変わらんな。権力者というのは」
そう、ナセルが愚痴ると、
「やっこさんも、お前に言われたくはないだろうな」
と言って、セバルーは意地悪く笑います。
「無礼者が」
怒ったラクロが剣を抜こうとするのを、笑いながらナセルが止めます。
「言わせておけ」
周囲の映像はそんな二人をよそに、視点を群衆の中へと移動させていきました。
『王は火を統べ、民は火を崇めた。そして王と火は一つだ』
王が手をかざすと光の粉が舞い上がり、人もドラゴンもぼんやりとした表情で命ぜられるまま動いていきます。
「みんな、なんだかおかしいよ」
ルルトはその様子に疑問を抱きました。彼らの周囲に舞い上がる光の粉は、ミュースの放つものとそっくりでした。
魔法使いはその光る粉を掴もうとしましたが、彼の手をすり抜け、触ることも出来ません。
「すべての魔法の源、魔法砂だ。我ら魔法使いはこれを操る事によって様々な事をなしえるのだ」
「しかしこれは、ちょっと違うようです」
セロムが口を挟みます。彼も周囲に展開する光景に我を忘れて見入っていました。
「火、水、風、土…、魔法砂が動かす万物の態は、古にはもう一つあったと言われている。…『心』というものが」
魔法使いは飛び交う光の粉をしげしげと見つめます。
「鏡の主は、それが何なのかを捜し求めていた。そしてわしは見つけたのだ」
「この砂、なんだかあれに似てる…」
ルルトが思い出したのは、鏡の中に閉じ込められた時、目の前に広がっていた砂漠の砂の事です。
そうしている間にも映像は進みます。
王は絶大な権力で民を治め、人もドラゴンもただ言われるがまま家畜のように動くのみでした。
都市は栄え、民は何不自由もなく与えられていました。
ルルトはその豊かな様子に感嘆します。
「こんなに栄えていたのに…」
そこには、自由だけがなかったのです。
「完成された世界は、世界そのものが牢獄となる」
魔法使いは悲しそうに目を細めて言いました。
王の魔法に従わない者は町を追われ、野山で貧しく細々と暮らさざるを得ませんでした。
やがて追われた民は生きる術を学び、彼らの住む集落も次第に大きくなっていきます。
『そして、火は奪われた。火こそが王の力の源だから』
人は火の製法を盗み、ドラゴンは火そのものを盗みました。
そして戦いが始まります。王と人間、ドラゴン達の戦いが。
『生き残るために彼らは力を望んだ』
その中で人は武器を作り出し、ドラゴンは翼を持ちます。人はドラゴンの背に乗り、都市を襲いました。
「我々は共に火を盗んだ者か」
セバルーはその光景に見入りながら呟きます。
遺跡は炎に包まれました。王の魔法は解け、彼らは自由を手に入れたのです。
そして、彼らは手に入れた火で様々なものを作り始めます。
「この頃が、一番幸せな時代だったのかも知れないな」
まだ共に生きているドラゴンと人間の姿を、ルルトはうらやましそうに見つめます。
その後、双方が火を独り占めしようと思うようになりました。なぜなら、火を点すには膨大な木を必要とするからです。そして森の数は限られていました。
始めは相手を疑い、やがて恐れるようになります。そして戦いが始まり、二つの種族は憎しみ合うようになりました。
「もう、おなじみの光景か…」
セバルーはうんざりした様に口をひん曲げました。
「短い平和だったな」
映像は途中から途切れ途切れになり、ついには消えてしまいました。
鏡が地面に落ち、砕ける音で、皆が我に返ります。
一行の輪の中に、粉々に砕けた鏡が散乱していました。
「これが、あの遺跡の記憶じゃ」
「なかなか面白いものを見せてもらった」
ナセルは魔法使いに会釈して、礼の代わりにしました。
「しかし今更、こんなものを見せられても遅い」
ヴカームはうつむきながら怒りをこらえて言い放ちます。
「死んだ仲間は返ってこない…」
「分かっておる」
魔法使いは同情しつつそう答えます。
「だが、これからなす事は変えられる」
「それでは本題だ。我々はお前達に相応の代償を要求しなければならん。私は講和に来た」
セロムはルルト達をじっと見据え、話を切り出します。
「我々は、これ以上譲歩できない」
「馬鹿な!ここまでの屈辱を受け、さらに虜囚として生き恥をさらせと言うのか」
ヴカームは大音声で叫びました。他のドラゴンもそれに呼応して騒ぎ立てます。
「静まれ!」
魔法使いもやむなく叫びます。
「元はといえば、戦いを呼び込んだのはおぬし達の方であろう。そしておぬし達は負けた。だから、これ以上無意味な争いをするなと言っている」
事実であるがゆえに、誰も返答できません。
「お前も所詮人間だな」
ヴカームは魔法使いにそう吐き捨て、砦の奥へと歩み去っていきました。怒りのあまり、尻尾を荒っぽく振り回し、引き止めようとする仲間を突き飛ばしながら。
「この戦いの責任は僕にある」
ルルトは一歩セロムに歩み寄り、そう告げました。
「僕が招いた事なんだ。この戦いは」
「リシオン様…」
アローエンはルルトを呼び止めようとします。
「僕はリシオンじゃない。ルルトだ」
アローエンに向かって、ルルトは屹然と言い放ちました。
「人間でもドラゴンでもない。鏡に取り付かれた者だ。僕がこのような姿になったせいで、この戦いが起こった。そうでしょう?」
そこまで言われると、アローエンも彼に告げる言葉がありません。
「だから、この戦いの責任は全て僕にある」
それはもちろん、彼が望んだ事ではありません。しかし、彼は全ての責任を背負う覚悟でここにいるのでした。だから、今まで一緒に戦ってきたのです。
「なるほど。して、敗軍の将としての望みを聞こう」
ルルトの次の言葉を待ち、彼の周囲に静寂が訪れます。彼は震え、つばを飲み込んで話し始めます。
「僕の…、僕の命と引き換えに、他のみんなを傷つけないと約束してほしい」
彼の言葉にセロムは驚き、目を見開きました。一瞬、自分の下心を見透かされたような気がしたからです。
彼が一目には寛大な条件を出しているのも、それによって彼らを懐柔しようという意図があったからでした。
何しろ、ドラゴンは戦力になります。たった十分の一の兵力で彼の精鋭部隊と渡り合ったのですから。彼の軍人としての野心は、それを逃す事を許さなかったのでした。
傷つけないとは、つまり、戦いに使うなという事だと、彼は直感したのです。
「やめてくれ!この子を殺さないでくれ!」
魔法使いはたまらずに二人の間に割って入ります。
「彼はただの子供だ。わしの不注意でこんな姿になってしまったに過ぎん。姿が変わっただけで何故このような扱いをされなければならないのだ」
「変わった姿が悪かったのだろう…ジム殿」
仕方が無かった。そうセロムは言いたげでした。
「そうじゃ。その姿はまさしくリシオン様だったのだから」
アローエンも同意して頷きます。
「姿とは何だ?地位か?種族か?それとも力か?なぜ誰もその内にあるものを見ようとしないのだ。彼の心はいつだって少年のままだった。それなのに誰もが寄ってたかって、この姿しか見ようとはせぬ」
「そんな事ないよ。ジム爺」
ルルトは優しくジムをたしなめます。
「僕は、この姿でできるだけの事をしようと思ったんだ。リシオンの真似事だけど、それは『僕が』やったんだよ」
ジムはその場にへたり込み、なおもルルトの体にしがみつきます。
「許してくれ。わしは本当に何も出来なかった…。鏡の主も笑っておろう。全てが同じことの繰り返しだった…」
彼はその場で膝をついて涙を流しました。
ナセルはその様子を見て、ようやく魔法使いの行動の理由が分かったのでした。
鏡の主とドラゴンの戦い。『封印戦争』と呼ばれたそれは、鏡の主がドラゴンの首領リシオンを封印し、英雄となった戦いです。しかしそれは、リシオンの身と引き換えに終わらせた戦いでした。
今ここで繰り広げられている光景は、その記録が再生されたかのようにそっくり同じ状況でした。
軍人は歴史の駒になるものだと常々彼は考えていました。しかしそれは、やはり流れに身を任せているだけにしか過ぎないと言えるのかもしれません。
なのに、目の前にいるドラゴンは、文字通り自分の意思で流れを変えようと戦ってきたのです。結局、彼は敗れ、今その清算を受けようとしています。しかしその行い愚かだと笑う事が出来るでしょうか。少なくとも彼には、このドラゴンが自分よりもずっと勇敢で志ある存在に思え、自分が情けなくすら思えてきたのです。
「お前は、この戦いを終わらせて、どうするつもりだったのだ?流れに抗って何をしたかったのだ?」
ナセルはルルトに問いかけました。それは彼の心から漏れ出した問いでした。
「僕は、ただ、みんなが仲良くいられればいいと思っただけなんだ。共に力を合わせれば世界はずっと良くなるのに」
「だがな、この世界には限りがある。全てが満足に行き渡らないように出来ている」
「だから、独り占めをしたくて争うの?僕にはそんな風には思えない。畑は耕せば実りをくれる。だから皆で耕せばいいのにって思っただけだ」
「畑の実りだけで、人は満足は出来ん。娯楽、虚飾、権力。人は常に今あるものより多くを欲すのだ」
ルルトは考え込んでしまいました。領主として多くの人々の欲望を見てきたナセルの前では、彼の言葉はただ一つの願望でしかなかったのです。
「だからって、殺しあう事ないじゃないか…」
彼にはそう言うのが精一杯でした。
ナセルは、ある意味ルルトに感化されつつあるようでした。
幼稚な言葉と向こう見ずとも言える行為。なのに、その背後にある意思が眩しかったのです。目の前にいるドラゴンは間違いなく彼よりも遠くを見ていました。
面白い奴だ、彼は思いました。
とはいえ、相手は敗戦の将です。何もしないでいるのは、戦死した部下にも、生き残った部下にも禍根を残す事になるでしょう。許す為には、代償が必要だったのです。
「お前とは、このような場で出会いたくは無かった…」
自分も、大公という地位に縛られた存在でしかないのだと言う無念が、彼の心を締め付けます。このドラゴンも、おそらく戦いたくなかったのだろう。しかし彼は将として戦いの先陣を切り、自らを引き換えに戦いを終わらせる事を選択したのです。全てに決着を着けるために。
彼の意思の通り、戦いは終わり、死力を尽くし完膚なきまでに敗れたドラゴン達は、その反撃の意志もついえました。こうでもしなければ争いはいつまでも続いたに違いありません。それは残酷な決断でした。
「お前…いや、貴殿の意思を尊重しよう」
せめて、その願いだけでも聞き届けようと思い、そう答えました。
「本当?」
「そうだ。誓ってもいい」
「ありがとう…」
ルルトはその場でへたり込み、顔を伏せて泣きました。ドラゴンは涙を流しませんけれど、その姿はまさに嗚咽と呼んでもいいものでした。
他のドラゴン達も泣きました。彼らの目からは、涙の代わりに光る粒子がこぼれ落ちていきます。
「竜の涙だ…」
セロムは目を見開きました。
ドラゴンは、本当に心を開いた相手にのみ涙を見せるといいます。
「しかし、処刑は行なわねばならん」
ナセルが続けた言葉は、その場に重く響き、ドラゴン達は狼狽します。
ルルトにはすでに覚悟が出来ていました。
「僕は償わなきゃいけない。傷つけたあなた達にも、負けてしまった部下達にも…」
「リシオン様…」
アローエンの呼びかけに、ルルトは振り向き、笑って言います。
「みんなありがとう」
それを聞いていたセバルーはたまらずに、話の席へと割って入ります。
「彼を殺すなら、俺を殺してくれ!」
セバルーがナセルとの間に立って、彼に言います。
「彼を利用したのは俺なんだ。だから俺を殺せ。さもないといつかまたお前と戦う事になるぞ」
セバルーはすぐにでも掴みかかりそうな剣幕でナセルに詰め寄ります。
「もういいよ。セバルー」
「いいもんか!こんな条件が呑めるものか。誇りも自由も失ってそれでも生きろなんてあんまりだ」
「もういいから」
「良くない!人間なんて信用できない。これまで何度約束を反故にされたか。『彼』だってきっとそうだ」
「彼は違うよ」
「そんな事分かるものか」
「セバルー、堪えてくれ」
ルルトは彼を抱きしめました。
「今はまだ怒りが消えないかもしれない。だけど、いつかきっと分かり合える。分かり合おうとしている限り」
「そうかもしれない。でも、それをお前は見れないんだぞ」
「だから、約束してよ」
「……分かったよ」
セバルーはナセルの方へと向き直り、言い放ちます。
「お前達に問おう。二つの色が混ざれば違う色になる。どちらかの色のままなどということはない。お前達にその覚悟があるか?」
彼はナセルの目をじっと見つめます。ナセルはそれに向き合い、まっすぐな視線で応えます。
「よかろう」
「その言葉、偽り無いな?」
セバルーの問いかけに、ナセルは頷きます。
「我々は今日から仲間だ」
「皆の怒りが癒えるまで、仲間などと言わないでくれ」
「しかし、我々はお前達が必要なのだ。時がくるまでいくらでも待とう」
夜明けと同時に、リシオンの処刑が行なわれました。
ドラゴン達が嘆き悲しんだのは言うまでもありません。
戦いは終わったのです。
その日、講和が成立し、ドラゴン達はナセルに連れられていきました。